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143. Belle II実験Aerogel-RICHにおける読み出しシステムの開発 / Hideyuki Takagaki [BELLE2-MTHESIS-2021-043] Presented on 10 01 2012 MSc
2012
Tokyo Metropolitan University / Hachioji
Belle II 実験とはB 中間子の稀崩壊を精密に観測することによって,新しい物理の 効果を観測することを目的とした実験である。  Belle II 検出器のEndcap 部の粒子識別装置Aerogel Ring Imaging Cherenkov Counter(A-RICH) は4 GeV までの運動量を持つK 中間子と! 中間子を4 " の精 度で識別を行うことを目指している。A-RICH はCherenkov 光を輻射体であるシリカ エアロゲルで発生させ,光検出器であるHybrid Avalanche Photo Detector(HAPD) を用いてCherenkov 光のリングイメージを捉えることで粒子識別を行う装置である。  我々はA-RICH の読み出しシステムに用いるためのフロントエンド部における読み 出し用ASIC「SA シリーズ」を開発している。これまで,SA シリーズは2nd version であるSA02 において基本的な要求性能を満たすことを確認してきた。  しかし,HAPD が実験中に中性子損傷を受け,リーク電流の増加に伴いノイズ増 加が予想されるため,読み出し用ASIC のShaping time を最適値に設定することで 読み出し時のノイズ量を最小限に抑える必要があると考え,Shaping time を最適化 したSA03 を開発した。  また,SA02 ではASIC の増幅率など各種パラメーターの読み込みを破壊読み出し 方式で行なっていた。この方式ではパラメータを読み出す際に,再度同一のパラメー タをレジスタに書き込むまでの時間がデッドタイムになってしまう。そのため,SA03 ではパラメータ設定方式を非破壊読み出し方式に変更した。  これらの機能の確認のため,シミュレーションにより動作検証を行った後,SA03 を試作し,その性能評価を行った。その結果,Shaping time の最適値への設定,お よび非破壊読み出し機能を確認し,要求性能を満たしていることを確認した。そし て,SA03 のプロトタイプであるSA02 にBelle II 実験10 年間行った際に飛来すると 予想される放射線を照射し,前後でノイズ量を比較し,Belle II 実験10 年分の放射 線耐性を確認した。また,SA03 を大量生産した際にこれらを迅速にテストするため の性能評価用ボードを開発した。そして,SA02 を搭載した読み出し用ボードの性能 評価を行い,必要な機能を確認した。  このように本研究によりA-RICH のフロントエンド部の読み出しシステムの開発 を進展させた。
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144. Bファクトリー実験で使用する新型光検出器の放射線耐性 / Wakana Mori [BELLE2-MTHESIS-2021-042] Presented on 23 03 2012 MSc
2012
Toho Univ. / Funabashi
今日、高エネルギー物理学では標準理論のより詳細な検証、標準理論を超える物理事象 の観測を目標に数多くの実験が行われている。その中で、小林・益川モデルの検証、CP 対 称性の破れの起源の探索を目標に1998 年にBelle 実験が開始された。CP 対称性の破れと は、C(Charge) 変換とP(Parity) 変換を行った際に、その前後で物理法則が変わってしま うことを示す言葉である。鏡に映すような変換の仕方をP 変換、電荷が反転するような変 換をC 変換といい、C 変換を行うと粒子と反粒子が変換される。実験的にCP 対称性の破 れが最初に観測されたのは、1964 年にクローニン、フィッチらによって行われた、K 中間 子の弱い相互作用による崩壊過程の実験においてである。このCP 対称性の破れを標準理 論の範囲で説明に成功したのが小林誠と益川敏英の2 人である。二人が発表した小林・益 川理論では、当時3 種類しか知られていなかったクォークが少なくとも6 種類あれば対称 性の破れを説明できると示した。小林・益川理論によると、CP 対称性の破れはB 中間子 でK 中間子よりさらに大きく発現すると予測される。そこでBelle 実験は、電子・陽電子 衝突型加速器(KEKB) を用いて、B 中間子・反B 中間子を大量に生成し、それらの崩壊現 象を詳細に観測することからCP 対称性の破れの観測を目指した。Belle 実験は2001 年夏 にB0 → J/ΨKs への崩壊過程においてCP 対称性の破れを発見し、現在までの解析の結果 からそのCP 非対称精度は標準理論から予測される値ときわめてよく一致した。標準理論 において小林・益川理論の導入によるCP 対称性の破れの説明の正しさが示されたといえ る。また、Belle 実験ではB→ ππ やペンギン崩壊などの稀有な崩壊事象も観測された。し かし、Belle 実験の加速器・測定器の統計精度では、稀崩壊の精密な測定が困難だった。そ こで2010 年のBelle 実験終了後、後継実験としてBelle II 実験が計画されている。小林・ 益川理論の詳細な検証や、稀崩壊の精密測定、標準理論を超える新しい物理の探索を展望 にBelle 􀀀実験では加速器及び検出器のアップグレードが行われる。 B 中間子の稀崩壊事象や崩壊前のB 中間子のフレーバーの同定のためには、K中間子とπ 中間子の粒子識別が非常に重要である。Belle 検出器のAerogel Cherenkov Counter(ACC) 検出器は輻射体のAerogel から放出されるチェレンコフ光の有無でK 中間子とπ 中間子の 粒子識別を行っていたが、測定器前方ACC の識別運動量領域は0.5 ∼2.0 GeV/c となって いて高運動量領域の識別が不可能となっていた。Belle II 実験では、高運動領域の識別を 可能にするため、ACC に代わる新しいK/π 粒子識別検出器としてAerogel-Ring Imaging Cherenkov Counter(A-RICH) 検出器の開発を進められている。A-RICH 検出器へアップグ レードすることによって識別運動量領域を4.0 GeV/c まで上げることができる。A-RICH 検出器は粒子が輻射体を通過した時に発生するチェレンコフ光をリングイメージで検出し、 リングイメージの大きさから粒子識別を行う検出器で、輻射体にAerogel、リングイメー ジを観測する光検出器にはHybrid Avalanche Photo Detector(HAPD)、読み出し回路に はASIC とFPGA を併用している。HAPD は「十分な有感面積」「位置分解能」「単光子 検出」「1.5 T の磁場で動作」「放射線耐性」などの要求を満たすデバイスとして浜松ホト ニクス(株) と共同開発を行っている、真空管と4.9 mm×4.9 mm のAPD ピクセルを144 ch 持つ新型のマルチアノード型の光検出器である。 本研究では、HAPD のガンマ線耐性について調査を行った。A-RICH 検出器が影響を受 けると予想される放射線はガンマ線と中性子線があるが、中性子線については研究が進ん でいる。まだ未検証の部分の多い、ガンマ線について、60Co 照射施設にてガンマ線照射試 験を行い、HAPD への影響を調べた。Aerogel RICH 検出器はBelle II 実験10 年間の稼働 予定期間中に最大で1000Gy 程度の積算ガンマ線量を受けると予想されている。本研究で は10 年間使用してもS/N∼7 以上での一光子検出能力を保持できるガンマ線耐性を持った HAPD 開発を目標にHAPD で特にガンマ線の影響を受けると考えられているAPD 部につ いてガンマ線耐性の評価を行った。半導体がガンマ線によって受ける影響は、表面的で余 り問題にならないといわれていた。しかし本照射実験によりHAPD はガンマ線によって強 く影響を受けた。これは半導体そのものではなく、HAPD を作成するためにAPD 表面に 形成された保護膜に原因があることが分かった。そこで複数種類の表面膜を調べることで、 影響の主原因となる膜を特定した。影響の少ない膜を用いることで、Belle II 実験で10 年 間使用可能なガンマ線耐性を持ったHAPD の作成が期待できる。
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145. Belle II 実験のエンドキャップ粒子識別装置用光検出器 とその信号読み出しシステムの開発 / Yoshinori Sakashita [BELLE2-MTHESIS-2021-041] Presented on 10 01 2013 MSc
2013
Tokyo Metropolitan University / Hachioji
現在,高エネルギー加速器研究機構において電子・陽電子非対称エネルギー衝突 型加速器Super KEKB が建設中であり,それを用いた素粒子実験Belle II が2016 年から開始される予定である。前身のBelle 実験ではBelle 検出器とKEKB 加速器 を用い電子・陽電子衝突により生成された大量のB 中間子の崩壊過程を精密に調 べることで,B 中間子系でのCP 対称性の破れの存在を証明した。さらに標準模 型を超える新しい物理の存在を示唆する結果も含まれていたが,統計数が足りず 確定的な証拠となっていない。そのため加速器を更にルミノシティの高いSuper KEKB 加速器に,検出器をより高精度なBelle II 検出器にアップグレードし新し い物理の観測を目的とした実験がBelle II 実験である。 Belle II 実験では高精度の測定が要求されることから,高い粒子識別性能が要 求される。そのために検出器のエンドキャップ部の粒子識別装置にはシリカエア ロゲルを輻射体とするRing Imaging Cherenkov counter (A-RICH) を採用する。 A-RICH はCherenkov 光をリングイメージで捉えることで4 GeV/c までの運動 量領域において,4σ の精度でK中間子とπ 中間子の識別を目指す。リングイメー ジを十分な精度で検出するためには,5 mm 以下の位置分解能を持ち,単一光子 の検出が可能であることが光検出器に要求される。そこで我々は,73 mm × 73 mmの領域に144 チャンネルを持つ,マルチアノード型Hybrid Avalanche Photo Detector (HAPD) を2002 年より浜松ホトニクス社と共同で開発してきた。 HAPD の増幅率は105 程度であり,かつA-RICH 全体として総計400 台を超え るHAPD を使用することから,信号読み出しシステムとしては低雑音で高増幅率 のアンプ機能, 高集積化されコンパクトな形状,多チャンネル同時読み出しが求 められる。そのためフロントエンドとしてA-RICH 専用のASIC「SA シリーズ」 の開発を行っており,ASIC とFPGA という2 種類の集積回路を搭載した読み出 しボードを用いることによりこの要求を満たす。これらHAPD とASIC を用いた システムでのビーム試験において,4σ を超えるK中間子とπ 中間子の識別性能が 確認されている。 しかし,A-RICH はBelle II 実験中に大量のガンマ線,中性子バックグラウンド に曝されながら10 年間の運用に耐える必要がある。特に影響を受けるのが半導体 素子からなるHAPD である。 原子炉から発生する中性子をHAPDに照射する試験の結果,HAPD内のAvalanche Photo diode (APD) のP 層を薄くすることで中性子損傷の影響を低減できること がわかっている。同時に読み出し時に波形整形回路の時定数を短縮することで中 性子損傷によるノイズが低減できることが確認できたため,時定数を短縮した新 たなASIC の開発を行った。 また60Co 線源を用いてHAPD にガンマ線を照射する試験の結果,APD に印加 する逆バイアスが定格電圧以下で絶縁破壊する事が確認された。この現象は,半 導体内部の損傷ではなくAPD 表面の保護膜の帯電によるものと考えられる。この ため,表面保護膜を形成しない製法を新たに立ち上げた。 以上の現状を鑑みて,本研究では中性子およびガンマ線対策を施した数種類の HAPD を製作し,中性子およびガンマ線の影響を調べた。まず,これらのHAPD に対して中性子照射試験を実施して性能評価を行い,さらに引き続いてガンマ線 照射試験を実施して再び性能評価を行った。その結果,中性子およびガンマ線が HAPD に与える影響は互いに独立であり,さらにそれらへの対策も独立かつ期待 通りに働くことが分かった。これらのHAPD の性能評価の結果,10 年間のBelle II 実験の運用に耐えるものがあることを確認し,Belle II 実験用量産機の仕様を決 定した。また,中性子損傷によるノイズ対策として波形整形回路の時定数を短縮し た新たなASIC の性能評価を行い,ほぼ期待通りの要求を満たすことを確認した。 さらにそのASIC を搭載した読み出しボードを製作し,放射線照射したHAPD を 用いて時定数短縮の効果を評価した。 以上の研究により,Belle II 実験の高放射線環境下に耐えうるA-RICH のための HAPD 量産機の仕様の決定と読み出しボードの評価を行った。
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146. Belle II実験に向けた粒子識別装置用光検出器HAPDの放射線耐性評価 / Masahiro Higuchi [BELLE2-MTHESIS-2021-040] Presented on 06 02 2013 MSc
2013
Tokyo Univ. of Science / Noda
素粒子物理学の分野ではその根本をなす標準模型(Standard Model) の詳細な検証,および標準模型を超え る物理事象の観測を目指して世界各地で実験が行われている。その一つであるBelle 実験は小林・益川理論に より記述される自発的なCP 対称性の破れが起きる事を証明するために茨城県つくば市にある高エネルギー加 速器研究機構で1998 年から開始された。Belle 実験は電子・陽電子非対称エネルギー衝突型円形加速器KEKB により大量にB・反B 中間子を生成し,その崩壊事象をBelle 検出器により観測するという実験であった。結 果として2001 年の夏,B0 ! J/ψK0 S の崩壊過程においてCP 非対称度は標準模型から予測される値と極めて よく一致した。こうしてCP 対称性の破れが小林・益川理論により数学的に矛盾なく記述できることが示され, Belle 実験は2010 年6 月に終了を迎えた。また,新物理への感度が期待される稀崩壊も発見されるがBelle 実 験における統計精度では精密測定が困難であった。そこで小林・益川理論の詳細検証や稀崩壊の精密測定を行 い,標準模型を超える新物理探索を目指すBelle II 実験が2015 年より開始される予定である。 Belle II 実験で特に重要なB 中間子のフレーバー同定の為にはK 中間子とπ 中間子の識別が必要となる。 Belle 実験ではこの識別のためにAerogel Cherenkov Counter(ACC) と呼ばれる閾値型Cherenkov 光検出器 が開発された。endcap 部のACC では運動量領域0.5~2.0 GeV/c でのK/π 識別を可能としていた。Belle I I 実験のendcap 部においてこの役割を担うのがAerogel Ring Imaging Cherenkov counter(A-RICH) である。 A-RICH へのアップグレードによりendcap 部でのK/π 粒子識別可能な運動量領域は0.5~4.0 GeV/c まで広 がる。A-RICH では荷電粒子が輻射体を通過する際に発生させるCherenkov 光をリングイメージとして検出 し,そのリング半径から輻射角度を測定する。輻射体の屈折率がわかっていれば別の検出器で測定した運動量 とA-RICH で測定した輻射角度を用いて粒子質量の決定,すなわち粒子識別が可能となる。輻射体にはエア ロゲル,リングイメージ検出用の光検出器にはマルチアノード型Hybrid Avalanche Photo Detector(HAPD), 読み出し回路にはASIC とFPGA を用いる。 HAPD は2002 年から浜松ホトニクス(株) と共同開発を行っており,真空管と4.9 4.9 mm2 のAvalanche Photo Diode(APD)144 チャンネルから成る多段増幅型の光検出器である。HAPD に求められる性能は「十分 な有効面積」「55 mm2 以下の位置分解能」「単光子検出」「1.5 T の磁場中での動作」「放射線耐性」である。 現在,特に問題となっているのは放射線耐性である。Belle II 実験10 年間の運用を想定した場合のガンマ線の 積算線量は1,000 Gy,中性子線は10 1011 neutrons/cm2 と予想されているため,これらの積算線量に耐性 を持ったHAPD が必要となる。 中性子線に関しては,過去の研究でHAPD 内APD のP 層を薄くし,読み出し回路のshaping time を最適 化することで耐性が向上すると報告された。 ガンマ線に関しては本来APD が受ける影響は表面的なものでありアバランシェ増幅領域を通らないため,増 幅利得の低下やノイズ増加といったS/N に関わる部分には大きく作用しないと考えられてきた。しかし実際に ガンマ線照射試験を行うとHAPD は強い影響を受け,通常のAPD による研究では理解できない急激な電流増 加が起こった。これは半導体部分ではなく,HAPD 製造に必要とされるAPD 表面の絶縁膜層によるものであ ることが判明した。そこで私はこのAPD 表面の各絶縁膜のガンマ線耐性の違いを調査し,主原因となる絶縁 膜を特定することでガンマ線耐性をもつHAPD への改良に成功した。 またHAPD として初となる中性子線+ガンマ線の複合的な照射を行なうことでAPD への作用がそれぞれの 放射線で独立であることを確認し,中性子線とガンマ線の両方に耐性を持つHAPD の最終仕様決定に至った。 本論文ではこれら中性子線・ガンマ線耐性試験結果を中心に報告する。
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147. BelleII実験に使用する粒子識別用光検出器HAPDの放射線耐性評価 / Nao Hamada [BELLE2-MTHESIS-2021-039] Presented on 13 01 2014 MSc
2014
Toho Univ. / Funabashi
今日、素粒子物理学では物理学の本となる枠組み(標準模型)の詳細な検証および、それ を超える新しい物理の検証をするために世界各国で実験がおこなわれている。そのひとつで あるBelle 実験は小林・益川理論の検証を目指し、その理論の予言するCP 対称性の破れを 証明するため、1998 年に茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構で開始された。CP 対称性の破れとはC(Charge) 変換とP(Parity) 変換を行った際、その前後で物理法則が変わ ることを示す。このCP対称性の破れが初めて実験的に観測されたのは1964 年J.W.Cronin, V.L.Fitch らによるK 中間子の弱い相互作用による崩壊過程の実験であった。これを標準 理論の範囲で説明したのが小林・益川理論であり、B 中間子の崩壊過程ではK 中間子より 大きくCP 対称性が破れることが予想され、Belle 実験が行われた。この実験は電子・陽電 子非対称衝突型エネルギー衝突型円形加速器KEKB で大量のB 中間子・反B 中間子を生 成し、その崩壊過程をBelle 検出器で観測するものであった。2001 年の夏、B0 ! J= Ks 崩壊過程において測定されたCP 非対称性度は標準模型で予測される値と極めてよく一致 し、CP 対称性の破れが小林・益川理論により説明できることが証明された。新物理に関与 する稀崩壊や興味深い現象も発見されたが、統計制度が不十分であり、新物理や新現象発 見に決着をつけることは困難であった。そこで一桁以上の統計向上を目的としたBelleII 実 験が2015 年より開始される。現在、測定精度もより向上させるために、加速器・検出器と もにアップグレードが行われている。 B中間子の稀崩壊事象や崩壊前のB中間子のフレーバー同定のためには、その崩壊粒子であ るK中間子・ 中間子の識別が必要であり、非常に重要である。Belle 実験ではこの識別のた めに閾値型チェレンコフ光検出器ACC(Aerogel Cherenkov Counter) が開発された。Belle 測 定器前方に取り付けられたACCはB中間子フレーバー特定に特化されており、その運動量 識別範囲は0.5~2.0GeV/c であった。BelleII 実験ではこの識別可能範囲を4.0GeV/c まで広 げるためにACC に代わる新しい検出器であるA-RICH(Aerogel Ring Imaging Cherenkov counter) の開発が進められている。A-RICH 検出器は粒子が輻射体を通過した時に発生 するチェレンコフ光をリングイメージで検出し、そのリング半径から輻射角度を測定す る。輻射体にはAerogel、リングイメージ観測のための光検出器には、Hybrid Avalanche Photo Detector(HAPD)、読み出し回路にはASIC とFPGA を用いる。HAPD は新型のマ ルチアノード型光検出器で、2002 年より浜松ホトニクス(株)と共同開発を行っている。 4:94:9mmのAPDが144ch 内蔵された真空管で、2 段増幅型の検出器である。「十分な有 効面積」「5 5mm以下の位置分解能」「単光子検出が可能」1.5T の磁場中での動作」「十 分な放射線耐性」が要求として求められる。現在は特に放射線耐性が問題となっており、 BelleII 実験10 年間の稼働でガンマ線は1000Gy、中性子線は1:0 1012n=cm2 の積算線量 が予測されているため、HAPD がこの線量に対して耐性を持つように開発することが必要 となる。これまでの研究で中性子線に対してはAPD 内のP 層を薄くすること、また読み 出し回路の波形整形時間を短くすることによって耐性向上につながることがわかっている。 ガンマ線に関しては、照射されると強い影響を受け、通常では考えられない急激な電流増 加おきるが、APD 表面膜の帯電の影響により引き起こされていることがわかっている。本 研究ではこれまでの放射線耐性試験の総まとめとして中性子線・ガンマ線を複合的に照射 し、その影響を調べる試験を行った。APD への影響はそれぞれ独立であることが確認でき た。また、HAPD 表面の光電面やAPD 内の複数の表面膜でガンマ線・中性子線の単光子 検出に影響を与えているものはないか、またそれぞれの膜の厚さによる影響の違いを調べ、 より高い利得が得られるように改良を行い、BelleII 実験10 年間の稼働でも放射線耐性を持 つHAPD の開発に成功した。
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148. Belle II 実験用粒子識別装置(A-RICH)で使用 される光検出器と読み出しASICの性能評価 / Keisuke Yoshida [BELLE2-MTHESIS-2021-038] Presented on 09 01 2015 MSc
2015
Tokyo Metropolitan University / Hachioji
茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK) で1999 年から2010 年まで 運転したBelle 実験は、電子・陽電子非対称エネルギー衝突型円形加速器KEKB 加速器 により大量のB 中間子対を生成し、その崩壊事象を観測することで自発的なCP 対称性の 破れの検証をはじめ、素粒子物理学における数多くの成果を挙げた。その一方でBelle 実 験では統計量によって測定精度に大きな制限を受け、標準理論を破る物理自称を観測する ことはできなかった。Belle 実験の後継実験として、標準模型を超えた新物理の探索に向 けBelle II 実験が計画された。  BelleII 実験ではKEKB 加速器はSuperKEKB 加速器へ、またBelle 検出器をBelle II 検出器へとアップグレードをすることで従来の40 倍のルミノシティを達成し、大統計を用 いて標準模型による予測からの差異を観測することで標準模型の枠組みを超える物理事象 の探索を行う。Belle II 検出器は7 つの検出器からなる複合型検出器である。その中でも Endcap 部と呼ばれる領域で荷電π 中間子と荷電K 中間子の識別を行うAerogel RICH (Ring Imaging Cherenkov) 検出器(通称:A-RICH) は、Belle II 実験で特に重要なB 中 間子のフレーバー同定において重要な役割を果たすπ 中間子とK 中間子の識別を行う 装置である。A-RICH では粒子識別可能なエネルギー領域を従来から0.5 GeV/c < p < 4.0 GeV/c まで広げることができる。A-RICH は輻射体であるシリカエアロゲルと144 チャンネルを持つ光検出器HAPD (Hybrid Avalanche Photo detector) から構成される。 荷電粒子がシリカエアロゲルを通過した際に発生するリング状のCherenkov 光を後段の HAPD でリングイメージとして検出し、粒子によって異なるリング半径の差から粒子識 別を行う。  A-RICH は合計で約6 万チャンネルを要する。それに伴い多チャンネルの同時読み出 しが可能で、各チャンネル毎の単光子検出に必要な高利得、低雑音の読み出し回路が必 要とされた。そこでBelle II 実験A-RICH 検出器開発グループは専用の読み出しASIC (application specific integrated circuit) を開発した。開発は2004 年より進められてきた が、Belle II 実験での実装を想定したASIC を試作し、その性能評価を行っていた。この ASIC は増幅器、波形整形、オフセット調節機能、比較器の機能を持ち、信号の有無とな るデジタル情報のみを出力する。  2014 年3 月に終了したASIC の量産では2520 個を作成し、その中から実機で使用する 1620 個を判定する必要がある。そのためASIC が持つ機能の性能を評価項目とした検査シ ステムの開発を行った。その結果から実機で使用する良品の判定を行った。ASIC からの 情報はヒットの有無であるデジタル情報であるが、Threshold scan という測定方法により 信号のアナログ情報を得ることができる。検査システムではThreshold scan の結果をも とにASIC の持つ機能の評価を行った。  A-RICH で使用する光検出器HAPDは2002 年から浜松ホトニクス社(株) と共同開発を 行っており、真空管内部にピクセル化されたAvalanche Photo Diode(APD) 計144 チャ ンネルが内蔵されたマルチアノード型の光検出器であり、2013 年8 月よりA-RICH 検出 器に用いるためのHAPD の量産を開始した。量産版HAPD は順次その性能評価を行って いる。測定項目はHAPD に流れるリーク電流、ノイズ量、増幅率、2 次元ヒット分布、量 子効率である。測定結果をもとにHAPD を選定し、最終的には420 個がA-RICH で使用 される。
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149. BelleII 実験用Aerogel RICH 検出器の粒子識別性能評価 / Shota Iori [BELLE2-MTHESIS-2021-037] Presented on 17 03 2016 MSc
2016
Toho Univ. / Funabashi
現在の宇宙がなぜ物質で満ちているのか、反物質はどこへ行ったのか。この謎を解く 鍵の一つとしてCP 対称性の破れがある。Belle 実験はB 中間子の崩壊を用いることで クォークセクターのCP 対称性の破れの観測を目指した。結果、CP 対称性は確かに破れ ていることがBelle 実験によって確認された。しかしCP 対称性がどの程度破れているの か、それは標準理論から予想される範囲内なのかを議論するには測定精度が低い。また Belle 実験で観測されたイベントには標準理論の予想を外れた新物理の兆候をみせるもの もあった。そのため標準理論の検証、新物理の探究を目指しBelleII 実験がスタートする。 Belle 実験からBelleII 実験への主なアップグレード内容としては、新物理に感度を持つ 高運動量領域の測定が可能になること、ルミノシティと測定精度の向上である。それに伴 い検出器のアップグレードも行われる。A-RICH 検出器はアップグレードされる検出器の 一つで、BelleII 検出器のなかでエンドキャップ部におけるK=p 識別を担う。 K 中間子とp 中間子はどちらもハドロンであり、質量が非常に近いため識別が困難であ る。しかしK=p 識別が必要な崩壊モードは多数存在し、崩壊元のB 中間子のフレーバー を決定するフレーバータギングや、シグナルとバックグラウンドの区別など重要な役割を 担う。そのためBelle 実験・BelleII 実験の測定精度に大きく関与する。 A-RICH 検出器は荷電粒子が検出器に入射した際に発生するチェレンコフ光のリングイ メージをもとにK=p 識別を行う。チェレンコフ光を発生させるための輻射体として光透 過性があり、屈折率の調節が可能なAerogel という物質をタイル状にして敷き詰めたもの を利用する。Aerogel のタイルはアルミニウムのフレームにセットされるのだが、そのフ レームのごく僅かな壁の歪みから位置のずれなどが発生してしまう。それに加え、フレー ムの表面におけるチェレンコフ光の反射を防ぐためにブラックシートをタイルとフレーム の間に挟むことになる。その結果、Aerogel のタイル間のgap の大きさが設計値の1 mm よりも大きくなってしまう可能性がでてきた。 本研究では、gap の大きさが大きくなることによる識別性能の変化を見積もり、gap の 大きさをどの程度に抑えるべきなのかを見積もった。識別方法としてはK 中間子とp 中 間子の対数尤度の差を用い、その差が設定した閾値よりも大きい場合をp 中間子とする。 つまり設定する閾値の大きさを大きくすればK 中間子と誤識別される割合(fake rate) を 低くすることができる。しかし閾値を大きくしてしまうと本物のp 中間子を落としてし まうことになり、efficiency が下がってしまう。そのため識別性能はefficiency とfake rate を比較することで評価することができる。 また、発生したチェレンコフ光を検出するために光検出器であるHAPD を420 台使用 する。現在HAPD は浜松ホトニクスで大量生産され、それが高エネルギー加速器研究機 構に送られてきている。その送られてきたHAPD の一つ一つに対してBelleII 実験で使用 するための要求をクリアしているのかを確認するために性能試験を行っている。
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150. Belle II 実験Aerogel RICH 用 読み出し回路の動作および量産試験 / Tetsuya Kobayashi [BELLE2-MTHESIS-2021-036] Presented on 17 03 2016 MSc
2016
Niigata University / Niigata
素粒子物理学は物質を構成する基本粒子とその間に作用する力を研究対象とする物理学の一分野 である。標準模型の詳細な検証や、標準模型を超える新物理探索を目的として世界各地でさまざま な実験が行われている。その中でBelle 実験は1999 年~2010 年に茨城県つくば市にあるKEK(高 エネルギー加速器研究機構) において行われた電子・陽電子非対称衝突型加速器実験である。 円形加速器KEKB によってB 中間子を大量に生成し、Belle 検出器を用いてその崩壊過程を精 密に測定することでCP 対称性の破れの検証を始め素粒子物理学における数多くの実験成果を上げ た。特にB 中間子系におけるCP 対称性の破れの観測は小林・益川理論を実験的に立証し、2008 年ノーベル物理学賞受賞への貢献を果たした。また、新粒子が寄与するようなB 中間子稀崩壊過 程の研究なども行われたが、Belle 実験で得られた統計量では標準模型を超える物理事象の発見ま では至らず、いくつかの兆候を得るにとどまった。そこでより精密な測定を十分な統計量を用い て行うためにBelle 実験の後継実験としてBelle II 実験が計画された。 Belle II 実験ではKEKB加速器からSuperKEKB 加速器への高性能化と、Belle 検出器からBelle II 検出器への改良を行う。加速器アップグレードにより従来の40 倍となるピークルミノシティを 実現し、最終的にはBelle 実験の約50 倍となる積分ルミノシティで標準模型を超えた新物理事象 の探索を行う。2017 年実験開始に向けて加速器及び検出器のアップグレードが進行している。 Belle II 検出器はさまざまな目的や役割をもつ検出器から構成された複合型検出器である。Aerogel Ring Imaging Cherenkov 検出器(A-RICH) はEndcap と呼ばれる領域での粒子識別を行う検出器 であり、Belle II 実験から新たに導入される。A-RICH ではB 中間子崩壊過程再構成において重 要な荷電K 中間子と 中間子を識別する役割を担い、Belle 実験では達成できなかった単一検出 器による広い運動量領域0:5 GeV=c < p < 4:0 GeV=c での高いK= 識別能力を目指す。その目標 を限られた検出器スペースで実現するため、リングイメージ型Cherenkov 光検出器を採用した。 A-RICH はCherenkov 光の輻射体であるシリカエアロゲルと144 チャンネルピクセル型光検出器 Hybrid Avalanche Photo Detector (HAPD)、および専用の読み出し回路システムによって構成さ れる。 識別原理は、まず荷電粒子がエアロゲルを通過した際に放射状に発生するCherenkov 光をHAPD によりリングイメージとして検出する。リング半径は粒子質量に相関があるためその半径差から 種類を判断できる。HAPD は420 台使用されるため、検出器全体の信号読み出しチャンネル数は 合計6 万チャンネルに及ぶ。そのため、読み出しシステムには多チャンネルの同時読み出しが可 能で、また微弱なCherenkov 光の信号をもれなく捉えられるようにチャンネル毎の単光子検出を 実現する低雑音、高利得の信号処理回路が求められる。さらに読み出しシステムに与えられた設 置領域はわずか50 mm であり、回路のサイズをコンパクトに抑えなければならない。それらの要 求を満たすためにA-RICH グループではFront-end board (FE board) とMerger board の2 種類 の読み出し回路を独自に開発した。 FE board はHAPD 1 台に対して1 台が接続され、集積回路であるApplication Specic Inte- grated Circuit (ASIC) とField-Programmable Gate Array (FPGA) を搭載している。ASIC はア ナログ信号処理及び、ヒットデータの生成を行う。FPGA はASIC の制御と後段の読み出し回路 へデータを転送する役割を担う。Merger board には6 台のFE board が接続され、ヒットデータ の収集・圧縮とBelle II データ収集システムへの転送を行う。また、データ読み出しに必要なトリ ガー・クロック信号の供給や接続されたFE board のコントロールなどの役割を担う。これら2 種 類の読み出し回路は最終的な仕様が決定し、実機に使用されるFE board 420 台、Merger board 72 台の量産および性能評価が行われる。
151. Belle II 実験用粒子識別装置Aerogel RICH におけるCherenkov 放射角分布のバックグラウンド解析 / Ryusuke Kataura [BELLE2-MTHESIS-2021-035] Presented on 30 03 2016 MSc
2016
Niigata University / Niigata
1999 年から2010 年の間に茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK) で行われてい たBelle 実験は電子・陽電子非対称エネルギー衝突型加速器実験である。本実験はKEKB 加速器 を用いて大量のB 中間子を生成し、その崩壊過程をBelle 検出器によって観測することで標準理 論の精密測定を行った。この測定により、小林・益川模型の証明に成功し、また新たなハドロン 共鳴状態の発見など数々の成果を上げられた。一方で、未新物理の寄与を示す標準理論からのず れは有意な信号で観測されておらず、さらなる検証のためにはデータ統計量を増やす必要がある。 そこでKEKB 加速器をSuperKEKB 加速器、Belle 検出器をBelle II 検出器へアップグレード し、標準理論を超える新物理の探索を行うBelle II 実験が、2018 年開始に向け準備が進められて いる。 Belle II 検出器は複数の副検出器から構成されており、そのうち荷電粒子の識別を行うものとし て我々はAerogel RICH (ARICH) の開発を行っている。Belle 検出器で同様の役割を担っていた Aerogel Cherenkov Counter は空間的制約のため2.0 GeV/c までの低運動量領域しか識別が行え なかった。検出器を高度化するにあたり、これまで識別できていなかった高運動量領域でも粒子 識別可能な検出器としてARICH を開発するに至った。 ARICH は荷電粒子が輻射体を通過することで放射されるCherenkov 光を光検出器によりリン グイメージとして観測し、ドリフトチェンバー等の他の検出器から得られる飛跡情報を併せて、粒 子質量に相関のあるCherenkov 放射角を算出し粒子識別を行う。ARICH の主な構成要素として、 輻射体であるシリカエアロゲル、半導体光検出器Hybrid Avalanche Photo-Detector (HAPD)、 HAPD 専用読み出しシステムがある。HAPD は5mm程度の位置分解能をもち、1 光子検出が可能 である特徴をもつ。これらを用いてARICH では主に荷電K= 中間子の識別を行い、0:5 GeV/c から4.0 GeV/c の運動量領域に対して有意度4 以上の識別精度を目標としている。 ARICH に使用する各構成要素はほぼ開発が終了しており、2013 年5 月にドイツにあるDESY 研究所のテストビームラインT24 にてプロトタイプARICH を用いた電子ビーム照射試験による 性能評価のためのビームテストを実施した。このセットアップに対して5 GeV/c の電子ビームを 照射し、再構成により得られたCherenkov 放射角分布から粒子識別能力を算出すると、目標であ る有意度4 以上の識別能力があることを確認した。 一方でビームテストにより得られたCherenkov 放射角分布にはバックグラウンド事象が含まれ ていた。バックグラウンド事象の一部は先行研究により調査されており発生原因も予測されてい るが、その分布について正確な理解はされていない。バックグラウンドの正確な理解は識別能力 向上に繋がると期待されるため、本研究では2013 年に行われたビーム照射試験をMonte Carlo シミュレーションで再現し、測定データと比較することでCherenkov 放射角のバックグラウンド 事象の検証を行った。 本論文ではCherenkov 放射角分布におけるバックグラウンド事象の検証結果と、特定された バックグラウンド事象について粒子識別尤度計算に用いる確率密度関数を報告する。
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152. Belle II 実験ARICH 用光検出器のためのモニターシステムの開発 / Koki Hataya [BELLE2-MTHESIS-2021-034] Presented on 10 01 2017 MSc
2017
Tokyo Metropolitan University / Hachioji
Belle II 実験は茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK) にて建設中である電 子・陽電子衝突型加速器SuperKEKB を用いた大規模素粒子実験で2018 年開始予定である。現 在までに理解されている標準理論を超えた物理で予言される新粒子を直接生成してその性質を調 べるエネルギーフロンティア実験に対し、Belle II 実験はB 中間子などの稀崩壊を大量に観測す ることにより間接的に新物理を探索するルミノシティフロンティア実験と呼ばれ、ここでは新物 理の寄与は標準模型との「差異」として現れると考えられる。前身のBelle 実験では新物理探索 に不十分であった稀崩壊事象の統計量をBelle II 実験では50 倍の統計量と共に測定器の精度向 上によって、この「差異」を観測することを主な目的としている。 Belle II 実験の種測定器であるBelle II 測定器は各役割に応じた複数の副検出器から成る汎用 測定器であり、その中でEndcap 部と呼ばれる領域での粒子識別(主に荷電K 中間子と荷電 中 間子) を担う装置がAerogel Ring Imaging Cherenkov 検出器(ARICH) である。前身のBelle 測定器では粒子識別装置として閾値型Cherenkov 検出器であるAerogel Cherenkov Counter (ACC) が搭載されたが、Endcap 部におけるACC では3 分離性能での粒子識別可能な運動量 の上限が2 GeV=c までであったのに対し、ARICH では4 以上での粒子識別を3:5 GeV=c まで 拡張することを目標として開発している。ARICH は輻射体であるシリカエアロゲル、光検出器 としてマルチアノード型HAPD (Hybrid Avalanche Photo Detector)、その信号読み出し用電 子回路で構成される。Cherenkov 光の放射角が粒子の種類(質量) とその運動量、輻射体屈折率 から決定できることを利用して粒子識別を行い、荷電粒子がシリカエアロゲルを通過した際に円 錐状に放射されるCherenkov 光を多数のHAPD で2次元リングイメージとして観測することで Cherenkov 光の放射角を測定する。 ARICH では144-ch マルチアノード型HAPD を420 台使用するため、総チャンネル数は約6 万チャンネルに上る。全チャンネルの応答の有無や検出効率などの動作状態はリングイメージの 観測精度に深く影響するため、ARICH の性能を維持する上で全チャンネルの定期的な動作確認が 不可欠となる。そこでLED 光をシリカエアロゲルによって乱反射させてHAPD に照射し、その 応答を定期的に調べることでHAPD のモニタリングを行なうシステムの開発を行なった。 本研究では、まずモニターシステムの試作機を構築しHAPD 全チャンネルの生死判定、ノイ ズレベル、増幅率といった基本性能を長期的に監視可能であることを示した。また、建設中の ARICH 実機の一部にモニターシステムを実装し、組み上げたシステムの健全性の確認と各種設 定値の調整を行なった。本論文では、主題であるモニターシステム試作機での動作検証と実機を 用いた性能評価について述べると共に、2016 年夏より開始した宇宙線を用いたARICH 本体の性 能評価試験についても記述する。
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