Thesis BELLE2-MTHESIS-2021-044

Belle II 実験のためのAerogel-RICH 検出器プロトタイプの性能評価

Satoe Tagai

2011
Toho Univ. Funabashi

Abstract: ビッグバン理論によれば宇宙が誕生したとき、粒子と反粒子は同時に作られたと考えら れているが現在の宇宙にはほぼ粒子しか存在していない。これには、粒子¢ 反粒子の「CP 対称性の破れ」という現象が起こっていることが関係している。 CP 対称性の破れを説明するために簡単なものに例えると鏡の中の世界である。鏡の中 では左右が反転する。しかし、その中で物理法則までは変わらない。このことを「対称性 がある」と呼んでいる。鏡に映すような変換の仕方を「P 変換」といい、素粒子の反応で 粒子と反粒子を置き換えても通常は、同じ反応が起きる。粒子と反粒子の変換を「C 変換」 という。C とP を同時に入れ替えても(CP 変換)物理法則は同じになると考えられてき たが、1964 年にクローニン、フィッチらがK 中間子の崩壊に関する実験からCP 対称性の 破れを発見した。 この対称性の破れの説明に成功したのが小林誠と益川敏英の2 人である。小林¢ 益川理 論では、当時クォークが3 種類しか知られていなかったが少なくとも6 種類あれば対称性 の破れを説明できるとした。これは現在の素粒子物理学における標準理論の基礎を築いた。 その功績を称えられ両者は2008 年にノーベル物理学賞を受賞した。そして、この小林・益 川理論を検証したのが、日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK)で行われている「B ファクトリー実験」である。この実験は、1999 年に開始され、2001 年にB0 ! J=ªKs へ の崩壊過程においてCP 対称性の破れが観測されたが、小林¢ 益川理論の詳細な検証とさ らに標準理論を超える新しい物理の探索を展望に加速器及び検出器のアップグレード計画 が進行中である。運動量3.5 GeV の陽電子ビームと8 GeV の電子ビームを衝突させB 中間 子と反B 中間子のペアを大量に作り、それぞれの粒子の壊れ方を測定し、CP 対称性の破 れを発見していこうというものである。高エネルギー加速器研究機構のKEKB 加速器を用 いたBelle 実験は2010 年を持って終了し、現在、後継実験としてBelle II 実験が計画され ている。このBelle II 実験はBelle 実験より測定器の性能向上と共にさらに統計精度を上げ ることで、標準モデルを超える新しい物理を観測することを目的としている。  Belle II 実験では稀崩壊事象や崩壊前のB 中間子のフレーバーの同定のために、K 中間子と¼ 中間子の粒子識別が非常に重要である。Belle 検出器のAerogel Cherenkov Counter(ACC) は輻射体のAerogel から放出されるチェレンコフ光の有無で運動量1GeV/c 以上のK/¼ 粒子識別を行っている。しかし,Belle 検出器側面(Endcap 部) では2.0 GeV/c 以上の高運動量領域の粒子識別が不可能となっている。 そのため、Belle II 実験では新し いK/¼ 粒子識別検出器としてAerogel-Ring Imaging Cherenkov Counter(A-RICH) 検出器 の導入を計画しており、開発を進めている。 当研究室では、Belle 実験のACC グループに属し、検出器の精度向上のためのACC の アップグレードを行っていてA-RICH の開発をしている。ACC の識別運動量領域は0.5 »2.0 GeV/c となっていて高運動量領域の識別が不可能となっているが、A-RICH へアッ プグレードすることによって識別運動量領域を4.0 GeV/c まで上げることができる。ARICH は輻射体にAerogel,リングイメージを観測する光検出器にはHybrid Avalanche Photo Detector(HAPD),ASIC を用いた読み出し回路で構成される。HAPD はBelle 検出 器Endcap 部に設置するため,「十分な有感面積」,「位置分解能」,「単光子検出可能」,「1.5 T の磁場で動作可能」の要求を満たすデバイスとして開発され、4.9 mm£4.9 mm のAPD ピクセルを144 ch 持つ新型のマルチアノード型の光検出器である。 本研究では、A-RICH ビーム照射実験で使用するHAPD のサンプルの性能試験を行い、 ビーム照射実験への実用性を確認した。次にHAPD とASIC の統合試験としてA-RICH プ ロトタイプを製作し、運動量2 GeV/c の電子ビームによる照射実験を行いチェレンコフリ ングを観測した。ビーム照射実験ではBelle 検出器内設置を想定した配置や電子ビームの 入射角度,様々なタイプのAerogel を使用した場合と実用に向けた検出器の評価を行った。 本論文は,研究背景として小林¢ 益川理論やCP対称性について述べた後、Belle 実験,KEKB 加速器,Belle 測定器の構成について述べる。そして従来のACC と開発中の新型A-RICH 検出器の原理、そしてHAPD の性能試験、A-RICH プロトタイプのビーム照射実験とその 解析結果より得られた性能に関してまとめを行い、今後の展望と構成されている。

Note: Presented on 25 02 2011
Note: MSc

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 Record created 2021-06-29, last modified 2021-06-29


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