Belle II 実験のエンドキャップ粒子識別装置用光検出器 とその信号読み出しシステムの開発
Category: Master Thesis, Visibility: Public
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Authors | |
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Non-Belle II authors | Yoshinori Sakashita |
Date | Jan. 1, 2013 |
Belle II Number | BELLE2-MTHESIS-2021-041 |
Abstract | 現在,高エネルギー加速器研究機構において電子・陽電子非対称エネルギー衝突 型加速器Super KEKB が建設中であり,それを用いた素粒子実験Belle II が2016 年から開始される予定である。前身のBelle 実験ではBelle 検出器とKEKB 加速器 を用い電子・陽電子衝突により生成された大量のB 中間子の崩壊過程を精密に調 べることで,B 中間子系でのCP 対称性の破れの存在を証明した。さらに標準模 型を超える新しい物理の存在を示唆する結果も含まれていたが,統計数が足りず 確定的な証拠となっていない。そのため加速器を更にルミノシティの高いSuper KEKB 加速器に,検出器をより高精度なBelle II 検出器にアップグレードし新し い物理の観測を目的とした実験がBelle II 実験である。 Belle II 実験では高精度の測定が要求されることから,高い粒子識別性能が要 求される。そのために検出器のエンドキャップ部の粒子識別装置にはシリカエア ロゲルを輻射体とするRing Imaging Cherenkov counter (A-RICH) を採用する。 A-RICH はCherenkov 光をリングイメージで捉えることで4 GeV/c までの運動 量領域において,4σ の精度でK中間子とπ 中間子の識別を目指す。リングイメー ジを十分な精度で検出するためには,5 mm 以下の位置分解能を持ち,単一光子 の検出が可能であることが光検出器に要求される。そこで我々は,73 mm × 73 mmの領域に144 チャンネルを持つ,マルチアノード型Hybrid Avalanche Photo Detector (HAPD) を2002 年より浜松ホトニクス社と共同で開発してきた。 HAPD の増幅率は105 程度であり,かつA-RICH 全体として総計400 台を超え るHAPD を使用することから,信号読み出しシステムとしては低雑音で高増幅率 のアンプ機能, 高集積化されコンパクトな形状,多チャンネル同時読み出しが求 められる。そのためフロントエンドとしてA-RICH 専用のASIC「SA シリーズ」 の開発を行っており,ASIC とFPGA という2 種類の集積回路を搭載した読み出 しボードを用いることによりこの要求を満たす。これらHAPD とASIC を用いた システムでのビーム試験において,4σ を超えるK中間子とπ 中間子の識別性能が 確認されている。 しかし,A-RICH はBelle II 実験中に大量のガンマ線,中性子バックグラウンド に曝されながら10 年間の運用に耐える必要がある。特に影響を受けるのが半導体 素子からなるHAPD である。 原子炉から発生する中性子をHAPDに照射する試験の結果,HAPD内のAvalanche Photo diode (APD) のP 層を薄くすることで中性子損傷の影響を低減できること がわかっている。同時に読み出し時に波形整形回路の時定数を短縮することで中 性子損傷によるノイズが低減できることが確認できたため,時定数を短縮した新 たなASIC の開発を行った。 また60Co 線源を用いてHAPD にガンマ線を照射する試験の結果,APD に印加 する逆バイアスが定格電圧以下で絶縁破壊する事が確認された。この現象は,半 導体内部の損傷ではなくAPD 表面の保護膜の帯電によるものと考えられる。この ため,表面保護膜を形成しない製法を新たに立ち上げた。 以上の現状を鑑みて,本研究では中性子およびガンマ線対策を施した数種類の HAPD を製作し,中性子およびガンマ線の影響を調べた。まず,これらのHAPD に対して中性子照射試験を実施して性能評価を行い,さらに引き続いてガンマ線 照射試験を実施して再び性能評価を行った。その結果,中性子およびガンマ線が HAPD に与える影響は互いに独立であり,さらにそれらへの対策も独立かつ期待 通りに働くことが分かった。これらのHAPD の性能評価の結果,10 年間のBelle II 実験の運用に耐えるものがあることを確認し,Belle II 実験用量産機の仕様を決 定した。また,中性子損傷によるノイズ対策として波形整形回路の時定数を短縮し た新たなASIC の性能評価を行い,ほぼ期待通りの要求を満たすことを確認した。 さらにそのASIC を搭載した読み出しボードを製作し,放射線照射したHAPD を 用いて時定数短縮の効果を評価した。 以上の研究により,Belle II 実験の高放射線環境下に耐えうるA-RICH のための HAPD 量産機の仕様の決定と読み出しボードの評価を行った。 |
Conference | Hachioji |
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latest upload: 2024-12-02